カフェバイトがスパイになるまで

崎山：お、久しぶりだね

生徒：残りのレポートでどうしてもわからないところがあるんで教えてください。

崎山：あ、数学ね。二次方程式、わかんないだろ？

生徒：はい！

崎山：じゃ関数の問題は飛ばそう。点がとれる問題だけやろうな。

生徒：そんなバッサリやっていいんですか？

崎山：とりあえず10月末締切だからな、最低点数の30点は確保しておく。残りはやりたければ自力でやれ。やる？笑

生徒：あー。。。やーらないかな笑　ちょっと言ってみただけです。

崎山：アルバイト忙しいんだってね。

生徒：はい、カフェかけもちです。

崎山：ところでカフェと喫茶店の違いはわかるかな？

生徒：わかりません。何が違うんですか？

崎山：カフェはフードが大事でね、調理ができるんだ。喫茶店はせいぜいトーストみたいに熱するやつだけね。

生徒：そうなんですね、だからカフェで調理してるんですね。

崎山：もう仕事はほぼ覚えたでしょ。

生徒：完璧です。大人のひとに仕事も教えたりするんですよ。

崎山：いい経験をしてる。卒業後はどうするか決めたのかな？

生徒：いえまだ。どうしよう。進学も就職も気が乗らないです。

崎山：とりあえずな、カフェの仕事を覚えたんだから、カフェ経営を覚えるんだ。

生徒：経営ですか。

崎山：ある日突然、オーナーが経営を人に譲りたくなったら「自分にやらせて」って言うの。

生徒：そんなことあるんですか。

崎山：あるね。高齢だったりね。求人ができない、仕入れも値上げ、そんな理由ね。

生徒：厳しいんですね。

崎山：でもしっかりやってるところもある。それを研究するんだ。カフェにもいろいろな種類があるし、フードがおいしい店は残っている。あとは人を雇わないでオーナーがひとりでやってるところもコロナを乗り越えてがんばってるようだね。

生徒：将来、自分のカフェやりたかったな。

崎山：できるよ。研究するんだ。どんなカフェが生き残ってるか。売上は客単価×来客数だからね、客単価はできるだけ高く、来客数はできるだけ多く、成功のカギはそれだけだからね。

生徒：今のオーナーはそういうのがうまいと思います。

崎山：チャンスだ。その仕事のうまさを盗むんだ。これは合法だ。

生徒：なるほど。

崎山：どういう商品・サービス・空間を提供しているか、家賃はいくらか、仕入れはいくらか、アルバイトはどうやって採用・教育をしているか。

生徒：そんなふうに考えたことなかったです。

崎山：君は表向きはカフェ店員、実は、スパイなのだ。

生徒：ははは。スパイかっこいい。

崎山：そのつもりで研究するんだ、忘れないようにな。

生徒：がんばります。

崎山：あ、ところで君は何の仕事してるんだっけ？

生徒：カフェですよ、あ、じゃなくて、スパイです。

卒業後の進路が決まらない

崎山：卒業後は何する予定なのかな？

生徒：このままバイトでやってくの、どうですかね？

崎山：えっと、レストランだよね

生徒：はい、ずっと飲食店です

崎山：接客が好きなのかな

生徒：いえ、そういうわけでもないんです

崎山：ほう、そうだったんだ

生徒：就職とか進学とか、全然その気がなくて

崎山：そうか

生徒：どう思いますか

崎山：全然、問題ないよ　でも仕事は楽しい方がいいぞ

生徒：なにが向いてるか、何にも向いてないような気がします

崎山：それは正しい認識だ　　向いていなくてもやるのが仕事ってもんだ

生徒：そうなんですか

崎山：そう考えておけ　何にも向いてないけど、その中でマシな職業をするんだ

生徒：マシな職業ですか

崎山：そういえば君はレポート作成ギリギリまでがんばらないけど、エンジンがかかると集中力あったよね

生徒：そんな感じです

崎山：接客もいいんだけど、何かものづくりに向いてる可能性あるよね

生徒：細かいものづくり好きです

崎山：例えばさ、アクセ、革製品、アプリ、服、食品、何でもできるとしたら何かつくりたい？

生徒：革製品です　ずっとやってみたいって思ってました

崎山：革製品の製造販売をしている会社はあるから、そこでバイトしてみよう

生徒：あ、ちょっと面白そうかもです

崎山：君はスパイになって革製品の業界のことを全部盗んできなさい

生徒：スパイですか　盗むのはちょっと

崎山：仕事を盗むのは合法だ　どんどん盗んで、革製品のプロになるんだ

生徒：なんか面白そうな感じです

崎山：革の製造、制作、販売はもちろん、エルメスやルイビトンのブランディングも勉強してみるんだ

生徒：それ、やってみたいです

崎山：まず自分が働いてみたい店や工房をネットや街歩きで探してみること

　　　気に入った製品があればタグをみて、日本製って書いてあれば製造元にアクセスできるだろう

　　　何なら私が問い合わせをしてあげるから、とにかくたくさん調べてみてよ

生徒：わかりました！　ありがとうございます

崎山：ところで君の仕事は何だったっけね？

生徒：はい、スパイです




　
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